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【旅行記】幻の駅、油壺―京成電鉄・八広駅

2017/08/12発行『発車案内紀行』より
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 私は駅で見る発車標の中で、特に反転フラップ式(いわゆる「パタパタ式」)が好きである。
 反転フラップ式発車標は、かつてJRや私鉄の駅に多く設置されていたが、時代の流れとともに姿を消しつつある。LED(発光ダイオード)式・LCD(液晶ディスプレイ)式と比較すると、文字が見やすく、情報量が抑えられている分、わかりやすいという利点がある。また、文字が書かれた板(フラップ)が高速でパタパタと音を立てながらめくれる様子に魅力がある。
 関西では反転フラップ式の数が少なくなりつつあるが、大手私鉄でまだ見られる駅が多い。関東で反転フラップ式を見るとしたら、京急であろう。京急川崎駅や、横須賀中央駅*1等、京急の主要駅では今もパタパタと音を立てて、稼働している。
 京急以外の関東の大手私鉄で「パタパタ式」を見られるところがあったのは、ご存知だろうか。それは、京成の八広駅である。八広駅は、東京都墨田区にある京成押上線の駅である。2016年当時、京成で唯一、反転フラップ式発車標(LED併用)が使われていた。その発車標の特筆すべきところは、あらかじめ用意されている行き先表示の中に「油壺」という駅名が存在したことである。
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 油壺駅とは、京急久里浜線堀ノ内駅三崎口駅)の終着駅である三崎口駅より延伸して設置を予定していた駅である。三浦半島の南に位置する油壺には、京急グループの水族館「京急油壺マリンパーク」があり、その付近まで線路が延び、駅ができるはずだった。三崎口駅を訪れると、レールの終わりは延伸工事を考慮した構造となっているが、これ以上延びることはなくなった。
 京急は、2005年に三崎口駅~油壺駅間の事業廃止を国土交通省に届け出て、廃止となった。そして、2016年3月に発表した決算にて、その延伸事業と沿線の大規模宅地開発事業の凍結を取締役会で決め、特別損失を計上した。「三浦半島の人口減少や地価下落」を理由としている。長い間、計画の進展がなかった京急の油壺駅の設置は、幻となったのである。
 京急三浦半島開発の歴史を伝えるものが、京成の八広駅の反転フラップ式発車標に残されていたのである。京成押上線は、都営浅草線を経由して、京急の路線まで直通運転する列車が走る。直通先の会社が計画していた駅を発車標の行き先表示として準備していたことになるが、何故、八広駅にそれがあるのか、詳細は不明である。
 2016年7月、八広駅の発車標は、新型のフルカラーLED式となった。フラップに残されていた京急の歴史の痕跡が消えた瞬間だった。

〈了〉

*1:横須賀中央駅の反転フラップ式発車標は、2019年3月に撤去され、LCD式発車標に変わった。2021年3月現在、京急では京急川崎駅のみ反転フラップ式発車標が設置されている。